緋忍伝-呀宇種(ガウス)

第三回「希望への脱出」
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 構 成: たかおかよしお
 脚 本: 神原正夫
その頃、紅蘭麻は肌襦袢だけの姿で、鞍も使わずに馬に乗せられていた。
「っくっ………………、はぁっ……んっ」
しかしそれは苦しみを伴う乗馬だった。紅蘭麻が乗せられているモノは、背を鋭く尖らされた三角形の木材で組まれた馬。つまり三角木馬と呼ばれる器具だ。
もちろんそんな馬の形もしていない器具になど、長い間乗っていられる訳がない。これに跨らせておく為には、縄で天井から吊す必要がある。そして下の方、開かれた両脚の足首にも別の縄がかけられ、上下にも左右にも動かせないように固定されている。
(こ、こんな、事って……)
完全に引っ張り上げられているのではなく、少し体重を感じられる様に尖らせた三角形に座らされているので、懸命に腰を浮かそうにも、両足首が引っ張られ、その体勢を変える事は出来ない。
紅蘭麻は肌襦袢だけにされただけでも充分に屈辱なのに、この器具によって苦痛と恥辱までも受ける事になっていた。
「ぅぐっ……」
幼い肉付きか若干残る紅蘭麻の股間には、無情にも木材の角が食い込む。当然男の味など知らず、使い込まれてもいない綺麗過ぎる紅蘭麻の肌に、直接木馬の木材の感覚が伝わってくる。それは暖かい木の温もりといった優しいものではまるで違う。
あられもない姿の為に羞恥心を泣きたい程感じている紅蘭麻だが、それを許さない程の痛みが襲ってくる。どうする事も出来ずにただ苦しみに耐えているだけだった。
「っふがっ…………ぁひあっ……、っ……ぐっ!」

この月影の領内では隆盛の意向により、主に領民に対する刑罰、特に婦女子に恥辱な拷問をする事など、紅蘭麻が生まれてこの方聞いた事がない。もし仮にあったとしても、紅蘭麻にそんな光景を見せる事はなかったのであろう。
まさか自分がこのような器具に跨る羽目になるなど、少しも考えた事など無いし、知りたくも無かった。
「ふぁひぃ…………ぃ、ひっ…………んっ」
この馬に跨った吊り始めこそ、紅蘭麻は恥じらいに眉を寄せつつ怒りを露わにして、幻斎一味への罪状を述べ連ねていたが、次第に静かになっていった。
自らの弱々しい部分を護らなければならない為、両腕と両股に力を込める為に、無駄なおしゃべりなどしていられなかった。
自分の体重が股間にかかる重さは、全て苦痛に生まれ変わり、徐々に勢いを増していく。逃れようと身を捩りもするが、体を動かす程、凄まじく痛みが湧き上がって来る為、次第に動きも緩慢になる。
凛としていた表情は苦悶だけを表す事になり、僅かに開けた唇から、微かな呼吸音と、か細い呻き声が出ていくだけだった。
「ぃっ…………ふぃぐぁ…………」
喉を動かすだけで体のどこかの筋肉が動く為に、その僅かな振動が股間へと凝縮して伝わる。動かないように堪えていると、自然と耳を澄ましたようになる為、ギシギシと自身を吊り上げる縄の音が聞こえてくる。
「……ぅぐ……、…………ぁ゛ぁ…………」
それでも木馬は容赦なく陰唇を分け入り、秘裂を擦り上げ陰核を皮ごとつぶし、菊座まで割れる様な感覚を与え続ける。やがて腰から痙攣が始まり、その痙攣は体全体を振るわせる。長く続く苦痛から、元々自分の体ではないような錯覚さえ思えてくる。
体の機能も熱いのか寒いのか制御出来ないようで、汗が全身から吐き出される。その汗は肌襦袢ではもう吸い切る事が出来ずに、次々と両脚を伝わって落ちていく。
屈み気味な体勢で下腹に力が加わる為、次第に尿意をも感じている。
意識を保っていれば、そんな痴態は絶対に見せる事はない紅蘭麻だが、もう腰全体は痺れてきて感覚がない。だから股間から伝わっている液体には、もう汗だけではなく、尿や淫水までが漏れているのかもしれない。
「……ぅふぁ………………ぁ」
更に体だけでなく、食い縛る事の出来なくなった口から涎が、白目の部分が多くなった目からは涙が、つられて鼻からも汁が垂れる事になって、綺麗な顔を汚していく。
「ひぃ…………ぁ…………」
気を失いそうになっても、痛みがそれを忘れさせてくれず、気が狂いそうになっても、痛みがそれを許さなかった。陰部に加えられる苦痛と羞恥の為、女性にとって他に類を見ない苛酷な拷問である事を身をもって味わっている紅蘭麻だった。
「ふくっ……、うっ………………っぁ……」
そんな紅蘭麻の目の前には、常に邪眼の輝きがあった。紅蘭麻自身でさえ何が見ているかはわからない。首に縄をかけられている訳でも無いのに息苦しい。
「苦痛、苦悶、そこから逃れようとする本能を 頸 ( くび ) 木 ( き ) として、自在に人心を操ってしまう能力を百々目は持っておる。逃れようとて逃れられぬ」
「……っはぁ……っ…………、ぁ………………っ」
紅蘭麻にその声が聞こえているのかいないのか構わず、幻斎は言葉を告げる。
既に痴態を見るのを楽しんでいるようだが、彼にとってこの紅蘭麻のこの後の態度こそが重要なのだ。
「誠恐ろしい術じゃて」
百々目は木馬の紅蘭麻の正面に立ち、顎を持って顔を固定させて、ずっと自分の邪眼を見つめさせている。
紅蘭麻の目は充血して赤くなり虚ろだが、邪眼の力は確実に、奥深い意識の中へと浸透している。紅蘭麻は苦痛が増す程、百々目の邪眼に惹かれているようだ。
思考は既になく、この日にも、この世にもなかった。様々な言葉や想いが頭を駆け巡る。
『ああ……、どうすればこの苦しみから解き放たれるのでしょう?』
『月が何か言っていたような気がする』
『私はどうしてこんな事に』
『父上のお加減は?』
『新しい者たちが来る。私の為に……』
『何を言っていたのでしょう?』
『今見えるこの光は、あの時の月なの?』
『あなた方の為にあるのです』
『誰かを待っていたのかも?』
『月ではなく、自分意志ではなかったかしら?』
『そのお方の名は確か……』

『お会いしたい者がおります』
『……が、呀宇種の……巫女?』
『護り部の者たちの所へ行かなければ』
『言う事を聞いてはなりませぬ!』
『いえ、それは私』
『受け入れたものなのか?』
『華虞夜と申すお方は……』
『いつからこの様な事が続いているのでしょう?』
『それは呀宇種の者』
『この様な者たちの言う事など!』
『いつ現れるのか?』
『天に帰らなかったのでしょうか?』
『どこから現れるのでしょう?』
『どのようなお方?』
『いつか現れる者……』
『呀宇種の者』
『がうす、の、もの……』


百々目は邪眼の術を続けながら、紅蘭麻の意志の中の何かが、壁のような力を持って術を拒んでいるのだと感じていた。
「少々、やっかいでございまするな……」
一息つくように百々目が呟く。
「誠強情な、この親にしてこの娘ありと言う事か」
幻斎は多少飽きたように言い放った。


「ぎゃっ!!」
その時、外から誰かの悲鳴らしき音が聞こえてきた。
「なんだ?」
「ぐぁ……っ!」
「ぅうぁっ!!」
「ひっ!!」
続いて数人が大声を出しているのが聞こえる。
「騒がしい。ケンカでも始めたのか!?」
幻斎は外で控えていた手下に向かって命じる。
「どうも血の気が多くて困ったヤツらじゃ、何事じゃ!!」
と、ちょうどそこへ外から駆け込んで来る者がいた。この者の姿は下忍のような装束で明らかに幻斎の手下とわかる。
「幻斎様! 何者かが城中に押し入りました」
「なんじゃと、何者かとはどういう事か?」
「それが詳しくはわからず。ただ一人は人の姿には見えないらしく」
「人でないだと!?」
幻斎はそれを聞いて、チラリと紅蘭麻を見る。
「そうか。やはり、紅蘭麻にも護り部が憑いておったか! 百々目はこのまま続けよ!」
「御意」
幻斎は紅蘭麻の痴態見物を諦め、下忍と共に足早に牢を出ていった。

「く……ぷはぁっ…………んっ、はぁっ……、ぁぁっっ………………んはっ」
百々目の気が僅かに逸れた為に術が弱まったようで、紅蘭麻は今の内にと言う勢いで、荒く呼吸を繰り返して空気を求める。
「姫様。まだ、終わりではありませぬぞ」
繋がれたままには変わり無い為、その言葉を紅蘭麻が認識したとは思えないが、構わずに百々目は、改めて邪眼を見つめさせようと紅蘭麻の顔を掴む。
ほんの少しだけ宙を泳いでいた紅蘭麻の目が、再びその邪眼に吸い込まれようとした時、また百々目の気が逸らされた。
「百々目様」
「ぬ? どうした?」
百々目はやや不機嫌になったが、いつもの声の調子を変えずに名前を呼んだ者を見る。
そこには先程、幻斎に外の騒ぎを知らせに来た者とは、別の男が 傅 ( かしず ) いていた。その男の装束は、他の下忍たちと同じだが、体つきが一回り小さいようだった。
「幻斎様が、やはり百々目様にもお出ましになって頂きたいと」
「……左様か?」
百々目が不審に思いながらも、仕方なく邪眼を収めて早々に牢の格子を出る。
入口の鍵を下忍に渡し錠を掛けさせてから、早速外に向かって通路を歩き出す。
「相当の手練れが入り込んだと言うのか?」
下忍は百々目のやや後ろについて歩く。
「は、詳しくはわかりませぬが」
「なれば、ここの守りは?」
「それより、全ての曲者を一カ所に集めたようで、一度に始末する為に百々目様の力も必要との仰せでございます」
「お前等だけでは無理と申すか?」
「残念ながら……」
「ふむ」
百々目が牢の入口を出る。そして後ろの下忍が戸口にいる気配を確認すると、刀に手をかけ振り向き様に、下忍に向かって刀を振り下ろす。
「ぬんっ!」
だがそこには下忍はおらず、抜き打ちの刀は空を切っただけだった。すると百々目の体に何かが横からぶつかってくる。それに百々目の方こそ不意をつかれ、そのまま立木の方に飛ばされてしまった。
「ぬぉっ!!」
さすがに樹木に激突するような事はなく、四股を使って容易く衝撃を吸収させた後、百々目は樹木を背に体勢を立て直し、刀を構える。
「何奴……」
しかし言葉も完全に発する事が出来ないまま、次に顔を目掛けて飛んで来た物を交わし切れずに、百々目は視界を塞がれ背にしていた樹木に固定されてしまう。
肌に触れる感覚からすると布のような物質で、顔だけでなく体全体に、刀を持っていた腕と両脚まで縛られたようだ。
実はそれは先程の下忍の装束なのだが、今の百々目には確認する事は出来なかった。


「姫様!!」
牢内に楓が駆け込んで来た。楓は下忍の装束を纏って牢に入り込み、またその下忍の装束を使って、百々目を足止めしたのだった。
早速、鍵を開けて格子の中に入って、紅蘭麻を固定していた縄を手早く小刀で切る。紅蘭麻はふらりと倒れ落ちそうになるが、そこを楓が支えてゆっくりと三角木馬から下ろす。
「姫様! 姫様!」
痛々しく傷付いた紅蘭麻の体を見て、楓は残して行った事を激しく後悔した。未熟さが残る紅蘭麻の体には、縄を打たれた跡が付き、更になだらかな丘を形勢していたはずの股間には、三角木馬による圧迫した痕がはっきりと残っていた。未だ申し訳程度にしか生えていない恥毛では、隠す事も出来ない。
「姫様! お気を確かに!!」
楓は素早く紅蘭麻の体をなで拭き上げて、肌襦袢の乱れを直した。その間も虚ろな表情の紅蘭麻に向かって、絶えず名前を呼びかける。
「姫様、これを……」
懐から小さな貝殻を取り出し、紅蘭麻の鼻先で開ける。ツンとした香りが瞬時に辺りに広がる。
「くっ……、ごほっ! ごほっ!」
その中には気付け薬が入っていたようで、紅蘭麻が数回咳き込む。
「姫様! わかりますか?」
「っあ……」
「楓でございます! 姫様!」
「か、楓か……」
「はいっ!」
紅蘭麻の意識が戻ると、楓は更に紅蘭麻の髪をまとめ直し、肩を貸して立ち上がらせる。
「っあぁっ……」
縛られていて四股に血が回りきっていないのか、股間からの痛みがまだはれぬのか、はたまた痛みから生じた快楽なのか、紅蘭麻はまだ満足に歩く事が出来ない。しかしグズグズしてはいられなかった。
「姫様しばらくはご辛抱を、申し訳ありませぬが急いでここを出ます!」
「ええ……、そうですね」
緊迫した状況には間違いない。紅蘭麻は楓を信じて素直に歩き出す。その健気な姿に楓も心が痛む。
「うっ……」
楓に支えられ、紅蘭麻はようやっと牢の出口に辿り着いた。その頃には痛みより気力の方が勝り、一人で歩けるようになったが、走る事はまだ出来ない。
二人が牢の外に出ると、未だ百々目が自身を縛りあげている布と格闘している所だった。視界は確保したようだが、なかなか布を断ち切れずに自由が回復出来ないでいる。そんな百々目からなるべく離れるように二人は移動する。
「楓、どうすれば……」
「姫様、私に離れませぬように」
楓は紅蘭麻を抱えたまま一気に跳躍する。それは一人を抱えていると思わせぬ程の高さと飛距離を描いていた。
そして百々目もやっと布を切り裂き、自由のみになった。
「こしゃくな。護り部とはあやつか!?」
百々目が普段よりやや怒気をはらんだ声を出すと、二人の逃げた方向に狙いを定め、遅れをとるかと跳躍をした。
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