緋忍伝-呀宇種(ガウス)

第三回「希望への脱出」
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 構 成: たかおかよしお
 脚 本: 神原正夫
その頃、他の場所ではオガルと桃花が下忍どもを相手に大暴れしていた。
オガルは小さな体の特権を活用して、屋敷の中を隠れたり飛び出したり、跳ね回って敵を翻弄している。下忍たちはオガルに一撃でも加えようと躍起になっているが、逆に辺りの状況を利用されて、同士討ちをしてしまったり、水の妖術を使われたりと次々と倒されてしまう。オガルが時々ふざけた態度で挑発を織り交ぜる為に、完全に手玉に取られている状況だ。
同じく桃花も先日の仕返しとばかりに、縦横に鎖鎌を飛ばしている。こちらもその技に次々と下忍が餌食になり、刈られたり引き倒されたりを繰り返している。桃花の動きも樹木や建物を利用して、一つに止まる事はない。
オガルが程良く体が温まったと感じた頃、桃花に声を掛ける。
「桃花! もうここは俺だけで充分だ、ケペッ!!」
そう言いながらも、目の前の下忍の顔を踏み付ける。
「楓の方を助けに行け! 姫様が心配だぁ!」
「せやな。じゃあ行かしてもらうで! ハッ!!」
桃花は言うが早いか、鎖を飛ばして枝に巻き付けると、同時に跳躍して乱戦の中を抜け出す。
「頼むぜ!」
「そっちもな!」
館の大屋根に着地すると、そう言葉を交わして桃花は屋根の影に消える。
桃花が行ったのを見届けると、オガルは一旦動きを止め、また下忍たちを挑発にかかる。
「お~ら! もっとましなヤツぁいねぇのかぁ」
木に登って枝にぶら下がったと思えば逆立ちして現れたり、池にかかる橋で褌をはためかせたり、お尻を叩いたりなど好き勝手に続ける。
「おのれチビ!」
「物の怪の分際で!!」
ずっとやられてばかりの下忍たちだが、ふざけた挑発に更なる怒りを強める。
「よせ!」
再びオガルに飛び掛ろうとした下忍どもを制するように声がかかる。
「不甲斐ない者共だ」
「おお修羅様」
「幻斎様」
さっと下忍たちが道を空けると、そこを大柄な男と黄色の頭巾を被った老人が進んでくる。
「お主、巫女の護り部よの?」
問う幻斎に、胸を張って答えるオガル。
「へっ、それを知ってるってぇだけで、てめえの目論見はわかるってもんだ。どこでウチの姫様に目を付けたかは知らねえが、返して貰いに来たぜぇ」
「はっはっは……、たいした自信じゃな」
「どれ巫女の護り部がどんなものか、六道衆の 修羅 ( しゅら ) が、相手をしてやろう」
オガルは一旦ザブリと池に飛び込んでから、再び姿を現して笑いながら言った。
「ケケケケ……、やっと手応えのありそうな者が来おったなぁ」
一旦、水気を帯びて外に出る。
(どれ、いっちょ正念場じゃぁ……)


「逃がさぬ!」
短いが百々目の気迫の篭った一撃が、楓と紅蘭麻を襲う。さすがの楓も、紅蘭麻に手を貸しながらでは足取りも遅く、身のこなしも鈍って充分に能力を発揮出来ない。
「楓!」
「姫様! 危ない!!」
飛びながら身をひねって百々目を交わす。百々目の刀は空を切るが、紅蘭麻を庇いながらなので、楓の体勢が崩れてしまう。
「きゃっ!」
「ぐっ!」
ガサリと植え込みの上に落ちる二人。すかさず紅蘭麻を捕らえようと迫る百々目に、倒れながらも楓が間に入り、己の足を出して百々目の脚を払う。
払った脚を一連の動作で、踵落としのような技に繋げる。厚底の履物が、百々目の頭上を襲う。この位置では百々目にバッチリと腰の中を覗かれているが、そんな事に構ってはいられない。
「んっ!」
「……このっ!!」
辛うじてそれを避けた百々目が、今度は楓に狙いを定めて剣を振り下ろす。ガシッと小刀で受け止める楓。
だが体勢が悪い分楓の方が不利だったようで、小刀を飛ばされてしまう。
「あっ!」
次に百々目の刀の柄で、腹を突かれて悶絶する。
「ふんっ!」
「ぐぅっ……」
楓はそのまま後ろ手を捻られ、百々目に体を引き起こされる。
「ふふふ……」
「ぐっ!」
楓の掴んだ腕を引き寄せると、すかさずもう片方の腕もまとめて締め上げる。
見た目からは想像出来ないが、以外に百々目には力があるようで、楓はそのまま宙吊りにされてしまう。
「捕らえたぞ」
「楓!」
紅蘭麻は楓の名を呼んだが、落ちた時の衝撃と、拷問による痛みや傷の為に寝転んだままで起き上がれずに、とても楓を助けられるような状態ではない。
「はぁぐぁっ……んっ!」
「これが護り部か、ふははは……」
百々目が薄っすらと笑うのに対し、楓の顔が苦痛に歪む。
紅蘭麻は辺りを見回して、楓の獲物である小刀を探したが、どこに落ちていったかわからない。紅蘭麻には歯噛みする思いで、百々目と捕らわれた楓を見守るしか出来なかった。
「女! 我が術を受けてみよ!」
「くっ……!」
百々目の邪眼が輝きだしていた。


「ケペッ!!!」
「オラオラッ! さっきの威勢はどうした!」
「ケケッ! お前こそ、手数ばかりで、さっぱり当らぬではないか!」
こちらは月影の天守の屋根。キンキンと刀が瓦に当る音と、二人の気合が響きあっている。
修羅の攻撃の特徴を察したオガルは、初めは障害物の多い屋敷の中で戦っていた。だが身を隠す物を次々と破壊され、今では屋外へと飛び出していた。
修羅はオガルと闘う事に全力を出しており、その為にオガルは、ここまで追い詰められてしまったようだが、相変わらず小さな体と身軽さを活用して、修羅の攻撃を右に左に交わし続けている。
修羅にとってそれは、自身の攻撃を避ける事で精一杯なのだと思っていた。ただ目標が小さいが為に当り難いのだと。
しかしその修羅の刀によって傷つけられ、建物が一部崩れたりして、何人か幻斎の手下が犠牲になっていた。この為に紅蘭麻たちを捕らえに行く人員が、足らなくなっているのに気付いていないようだった。

二人の追いかけっこは、既に天守の高みにまで来ている。
「ふんっ、何が護り部だ。所詮カッパごときではないか!」
「カ~ッ! 無礼なっ! カッパなどではないっ精霊だぞぉ!!」
今度は修羅の挑発に、オガルが乗った感じになる。
「ケヘッ!!」
「来いっ!」
オガルの方から修羅に飛び掛かる。修羅はそれに怯む事無く、四方から刀を繰り出してオガルを襲う。
「クパッ!!」
一つの刀を足場にして、辛うじて飛び避けたオガルだが、修羅には予想された動きだったらしく、その場所目掛けて再び修羅の白刃がオガルを狙った。
「どうじゃ! おらぁ!」
「なんとっ!」
剣先がオガルの皮一枚を掠める。だが更に間合いを詰めた修羅の一撃が迫る。
「はっ!」
「……!!」
その一撃に修羅は充分な手応えを感じた。
そのままくるくると宙を舞っていたオガルは、屋根の突端に聳える鯱の上に着地しようとする。しかしバランスを崩しているようで、飛んだ軌道が大きすぎて、ただでさえ短い足がそこに届かない。
「ゲパ~~~~ッッ!!」
そのまま下に向かって落下していくオガル。下には城下の森が広がっており、そこに向かって長い悲鳴を上げながら、小さな緑色の生物は、さらに小さな点となって消えていった。
それを勝ち誇ったように見下ろしている修羅。
「ふん! 物の怪の類ゆえか、切った感覚が微妙だわ。しかしこの高さではいくら何でも無事では済むまい」
踵を返すと、修羅は幻斎の元へと戻っていった。
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