緋忍伝-呀宇種(ガウス)

第二回「呀宇種(がうす)の巫女」
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 構 成: たかおかよしお
 脚 本: 神原正夫

「幻斎! 陀吉尼! 二人ともどこにいる!!」
翌朝、月影の館に凛とした紅蘭麻姫の声が響いていた。
陀吉尼の術を見届けて、抜け出した楓と桃花の二人であったが、やはり陀吉尼の術に少しかかったらしく、紅蘭麻の元に戻るのに少々時間がかかってしまった。
二人の報告を聞いた紅蘭麻は怒りに震え、早速、幻斎と陀吉尼を捕縛して問いつめる事にしたのだが。
「幻斎! 陀吉尼! さっさと出やれ!!」
騒ぎを聞きつけた家臣たちも、事のしだいを聞き及んで紅蘭麻姫の後に付き従う。
当然姫の側には楓と桃花の二人も寄り添っている。
「そなたたちに聞きたい事がある! おとなしゅう出てきやれ!」
「出てこい!」
「どこだ!」
家臣たちも声を上げて二人を見つけだそうと走り回る。しかし幻斎と陀吉尼の姿はおろか、父の隆盛の姿も見かける事が出来なかった。
「これはいかなる所業か幻斎!!」
紅蘭麻たちに焦りが芽生えだした時、突然護摩壇の方から声がかかった。
「姫様。騒々しいですな、何事でございますか?」
「出たな妖怪!」
紅蘭麻たちが護摩壇の方に急ぐと、その上に幻斎が立っていた。
「降りてこい! 父上をどこに隠した!!」
「はは……、訳あってお移り頂いております」
「なんだと!? どこじゃ! どこに隠した!!」
「このお館には、人を閉じこめるのに都合のよいところがございましたのでな」
「山の手の岩牢か!?」
この館には牢獄の施設もある。幻斎はその事を言っているのだと紅蘭麻は思った。
「殿はご乱心遊ばされた。恐れながら、これはやむなき仕儀」
「何を申すか!! もはや誤魔化されぬ。これは陀吉尼とそちが仕組んだ事! 妖しげな術で、我が父を籠絡しおって!!」
紅蘭麻は幻斎に向かってその悪行を問い詰めるが、父を人質に取られてしまった事により、焦りが生じてきた。
「即刻、父上を城内へ戻し、そなたらは城中から去るのじゃ!!」
「おお、どうやら姫様もお気がふれてしまったご様子じゃ」
幻斎の紅蘭麻姫に対する言いぐさに、家臣たちの方が殺気だった。
「なにを申すか! 偽典医が!」
「よくも我らを、殿をたばかったな!!」
争って屋根に上り幻斎を捕縛しようとする。だがその時。
「ぎゃぁぁっっ!!」
「ぐぇぇぇっ!!」
「ひぐぁぁあぁっ!!」
躍り出た影によって、たちまち数人が斬って落とされてしまう。殺された家臣たちは、何が起こったのかわからなかった様子で、生き残った者たちも必死に辺りを見回すだけで、何の対処も出来なかった。
その仕業から、刃物を幾つも持った者が現れたらしいとはわかるのだが、その姿を目で捉える事が出来ない。
「うぐぁぁっっ!!」
「ぎゃひぃぃっ!!」
そんな家臣たちが、またも斬り倒されていく。
「おのれ!」
「姫!!」
「あっ!」
紅蘭麻も刀を抜き斬りかかろうとするが、楓と桃花が慌てて引き留める。
「そなたたち、邪魔をするな!」
「なりませぬ! このままでは我らも捉えられてしまいます!」
「そや、姫様。今は分が悪いで、いったん退却や!」
楓が紅蘭麻の手を引き、館の外に向かって走り出すと、桃花も後ろを警戒しつつ、二人の後を追って走り出す。
「ならぬ! 父上を助けるのじゃ!」
「今は逃げる事をお考え下さい!」
それでもなお、紅蘭麻は楓の手を離そうともがき、幻斎の方に向かおうとする。
「ぐぎゃっ!!」
「ひぐぁぁっぁああっ!!」
その場に残った部下たちが必死に戦っているようだが、次々と断末魔の悲鳴が聞こえてくる。
「家臣たちが!!」
「あかん! かわいそうだが今はほっとき!!」
紅蘭麻は涙が溢れそうだった。懸命に父に従ってきてくれた家臣たちを、みすみす見殺しにしているのが耐えられなかったのだ。
「楓ちゃんどうする?」
「ひとまずオガルのところへ!」
「くっ……ええいっ!!」
楓が桃花と言葉を交わし、それに気をとられた瞬間、ついに紅蘭麻は楓の手を振りほどき、別の方向へ走っていってしまう。
「だめです姫様!!」
「どこいくんや!?」
二人の声が聞こえたが、紅蘭麻は走るのを止めなかった。

屋敷の中心で、幻斎と謎の影相手に果敢に挑んでいた家臣たちであったが、怪しげな術に敵うはずもなく次々と餌食にされていった。刀を抜く事も出来ずに立ちすくむ者、何もせず逃げ出してしまう者までも、その影に斬り倒されてしまう。
「もういいでしょう 修羅 ( しゅら ) 」
回りに立っている家臣たちがいなくなると、幻斎が影に向かって声をかけた。
すると修羅と呼ばれた影が立ち止まる。やっとその姿が見えるようになった時、既に辺りは鮮血が敷き詰められ、人であったものや、その一部だったものが累々と転がっていた。しかしその中央に立っている修羅という男には、一滴の血飛沫も降りかかっていない。
「幻斎様、姫を追いますか?」
「いや、あやつに任せればよい」
修羅の問いにそう答えて、幻斎は紅蘭麻姫が逃げた方に目を向けた。

楓と桃花の二人と別れた紅蘭麻は、山の手にある地下牢の入口に向かっていた。
(朝の間に父を隠すとすれば、あそこしかない!)
そう思って紅蘭麻が走っていると、未だ生き残っていた父の家臣たちが、何人か紅蘭麻の回りに集まってきた。
楓と桃花には悪いが、どうしても父を助けたい。幸い家臣たちもまだ何人か残っている。少しは安心して、紅蘭麻は父がいるであろう牢に向かっていた。
すると突然、前を走っていた家臣の何人かがいなくなった。
「あぶないっ!」
姫の前にとっさに出た者がいたが、その者も悲鳴をも上げられずに倒れ込んだ。
「ひっ!!」
紅蘭麻は悲鳴を上げて立ちすくむ。回りにいたはずの家臣たちがいつの間にか全員倒れている。どうやらまた何かの術のようなものでやられてしまった様子で、ふと正面を見ると、武芸者風の男がただ一人立っているだけだった。
「おのれ幻斎の手の者か!」
既に紅蘭麻一人だけがそこに立っているだけだった。
武芸者風の男は、紅蘭麻に向かって静かに名を告げた。
「拙者は 百々目 ( ももめ ) と申す。姫様に手荒な真似はしたくない、おとなしく縄を受けられよ」
そう言われた紅蘭麻は、気を引き締め直して刀を構える。
「そ、そうはいかぬ! このまま牢に行かせてもらう!」
百々目という男は、少しだけ眉を動かしてそれに答えた。
「自ら牢獄へ行かれるとは、拘束するのに好都合ですな」
「……くっ!」
その言葉が終わらぬうちに、紅蘭麻は鳩尾に痛みを感じて意識を失った。
地面に崩れ落ちそうだった紅蘭麻を、百々目が受け止めそのまま肩に抱え上げる。幻斎の言ったとおり、紅蘭麻を捉えるのは百々目だけで充分だった。


不本意ながら紅蘭麻と別れてしまった桃花と楓は、館の外に出て町を抜けた後、森の滝壺へと走っていた。
「楓ちゃん、なんで姫様を助けんで逃げなあかんのや!?」
「あの者たちは、ただの人間ではないわ。私たちの正体を見破られる前にオガルに報告しなければ」
二人は速度を落とす事なく、そのまま森の奥に消えていった。

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